頭痛外来

頭痛外来について

一次性頭痛と二次性頭痛

頭痛とは、頭頚部に痛みをきたすものを言います。我が国内で約4000万人もの人が頭痛に悩まされていると言われます。つまり国民の10人に4人が頭痛持ちと言われます。頭痛を大きく分類すると、原因となる基礎疾患のない一次性頭痛と脳腫瘍や脳出血などの明らかな原因が存在する二次性頭痛に分けられます。

一次性頭痛は慢性頭痛ともよばれ、明らかな基礎疾患はないものの症状が頻繁に起こるような頭痛を指します。 いわゆる頭痛持ちの頭痛は一次性頭痛に該当します。 個人差はありますが、痛みが定期的に襲ってくるためにストレスになっていたり、生活の質が低下する原因になります。 可能な限りの治療や対処をしつつ、長期的に付き合っていく必要のある頭痛です。以下の様な疾患を指しますが、大雑把に言うと下記のような痛みと、性状を有します(図1)。

  1. 緊張型頭痛
  2. 片頭痛
  3. 群発性頭痛
  4. 混合性頭痛(筋収縮性頭痛と血管性頭痛が合わさったもの)
  5. 神経痛
  6. 心因性頭痛
分類 緊張型頭痛 片頭痛 群発性頭痛 神経痛 心因性頭痛
前駆症状 なし 閃輝性暗点
色覚異常
なし なしのことが多い 様々なストレス
抑圧された葛藤
頭痛の症状 頭全体を締め付けられるような痛み
頭痛鉢巻き
一側性の前頭部~側頭部に及ぶ拍動性頭痛 一側性の目の周囲の拍動性の激しい痛み 神経の走行に沿った鋭い痛みが走る 言葉で表現できないような痛み
持続時間 夕方に多い 数時間 1~2時間 数秒~数分 常時
他の症状 肩こり、眼精疲労 嘔気、嘔吐、光過敏 結膜充血、鼻水 皮膚発疹、外傷、発赤 大げさな訴え

図1 一次性頭痛の性状と痛みの性状

緊張型頭痛

頭や、後頭部から首にかけての筋肉の緊張により起こると考えられている頭痛です。いわゆる頭痛鉢巻きや、あるいは頭全体にお椀が被さったような頭重感と表現されます。一次性頭痛の中では最も多く、成人の有病率は約20%~40%と推計され、男女ともにみられますが、女性に多い傾向があります。過度の身体的ストレスや精神的ストレスが重なることによって症状が悪化すると考えられています(図2)。他に頭痛を起こす病気がないことを調べるために、頭部CT検査や、頭部MRI検査などを行う必要もあります。

緊張型頭痛の治療はマッサージ、入浴、肩こり体操などの物理療法を行ったり、安定剤, 筋弛緩薬、あるいは血管拡張薬などを投与する事も行われます。場合により肩こりの筋肉注射を試みたりします。また、心理療法も行われます(図3)。

いずれにしても慢性化してしまい、月に15回以上の頭痛があり、また月に10回以上、市販の頭痛薬を飲んでいる方は薬物乱用頭痛の可能性が高いといえます。そのような場合には薬物をいったん中止し、その他の薬に変更したり、症状が落ち着いた時点で治療を再開する等を行います。精神的なストレスなどが原因となって発症している緊張型頭痛や片頭痛には投薬や漢方薬以外にTMS(経頭蓋磁気刺激)治療も有効との可能性が示されていますが、現在、頭痛に対するTMS治療は本邦では厚生労働省の認可を得られていません。

図2 緊張型頭痛の発生機序の模式図

図2 緊張型頭痛の発生機序の模式図

図3 緊張型頭痛の治療

図3 緊張型頭痛の治療

二次性頭痛

頭痛の殆どは心配いらないものですが、なかには脳に異常があり頭痛が起きる場合があります。これを二次性頭痛と言います。(図4)

図4 二次性頭痛の原因

図4 二次性頭痛の原因

クモ膜下出血

通常は脳動脈瘤が破裂して生じます。今までに経験したことのないような激しい頭痛が起こり、嘔気、嘔吐を伴い、重度の場合は意識障害を来し、生命に関わりますので、早急に検査や手術が必要となります。

脳出血

脳出血は血圧が急上昇し、脳内の細い血管が切れて出血を生じます。
クモ膜下出血と同じく強い頭痛をきたしますが、出血の大きさや場所により症状は異なります。また、意識障害、半身麻痺、言語障害を伴うことがあります。一度出血すると、後遺症が残る可能性が高いので、高血圧の方はそうならないように十分な治療を行い、予防することが大切です。

脳腫瘍

脳腫瘍は成長するにつれて頭蓋骨内の痛みを持つ構造物である脳硬膜や太い血管を圧迫して頭蓋内の圧力が強くなり頭痛を起こします。頭蓋内の圧力が高まることを頭蓋内圧亢進と言います。腫瘍の発生場所により症状はまちまちです。

慢性硬膜下血腫

少し頭を打つなどの軽微な外傷で1~2ヶ月の間に頭蓋骨と脳の間、つまり硬膜下に血液がたまってくるものです。頭部打撲は軽微なものですので患者本人は覚えていないことも有ります。血腫が大きくなり認知症状や麻痺などの症状が出た場合は手術が必要です。通常、血腫はさらさらの液体のため、開頭術は必要なく、頭部に1つの穴を開け、そこからチューブを留置して血腫を洗浄します。その場合2週間までの入院となります。

髄膜炎、膿瘍、脳炎

上記による頭痛は強いことが多く、徐々に自覚することが多いですが、発熱や風邪症状により自覚することもあります。脳や脳脊髄液がウイルスや細菌に感染する事が原因となり、抗ウイルス薬や抗生物質の治療が必要です。また、てんかんの原因ともなりますので脳波検査や脳脊髄液の検査が必要です。

その他の二次性頭痛

多くは脳血管の充血や過拡張による血管性頭痛です。発熱を伴う頭痛、二日酔いによる脳血管の充血、飛行機に乗った場合、高山での低酸素症による頭痛、てんかん発作後、著しい高血圧等での脳血管の充血による頭痛があります。

片頭痛について

頭皮や脳の血管が異常に拡張し、ズキンズキンとした拍動性の頭痛を来し、日常生活に支障を来すようになるものを片頭痛と呼びます。通常はどちらかの目のあたりや側頭部に頭痛を来すことが多いのですが、両側性や後頭部に頭痛を来すこともあります。我が国では1年間に約800万人の人が片頭痛に悩まされているといわれ、決して少なくありません。女性ホルモンと関連があるため、どちらかというと女性に多いと言われ、20代~40代の働き盛りに多いと言われています。次の様な症状のある方は片頭痛の可能性があります。

  1. ズキンズキンする頭痛が頭の片側に起こる。
  2. 我慢できない痛みで、仕事に支障が出る。
  3. 体を動かすと頭痛が悪化する。
  4. 頭痛が起きると吐き気や嘔吐を伴う。
  5. 光や音に敏感になり、空腹感 イライラ感、手足のむくみといった予兆がある。
  6. 家族や兄弟に片頭痛を持った人がいる。

1~6の内、2つ以上当てはまり、4、5の内1つでも当てはまれば片頭痛であると考えられます。片頭痛には2つのタイプがあり、閃輝暗点(せんきあんてん)といった前兆があるタイプと前兆がないタイプに分類されます。閃輝暗点とは、視野の中央にギザギザした光が現れ、数十分間ほど続きます。この閃輝暗点を伴ってから、もしくは消失してから60分以内に、ズキンズキンとした頭痛が生じます。頭痛の持続は1日以内に消失することが多いです。前兆のないものは、頭痛が数日間持続し、その後消失します。生理の前後に生じることが多いと言われています。

片頭痛の発生メカニズム

片頭痛が発生するメカニズムについては十分には解明されてはいませんが、現在、三叉神経―血管説が有力視されています。片頭痛は何らかの原因で脳の血管が拡張し、その拍動にともない血管周囲を取り巻く知覚神経である三叉神経が刺激されて、頭がズキンズキンと割れるように痛むことが分かっています。このような片頭痛は天候や睡眠の変化、体内ホルモンの変動、ストレスからの解放など心身のリズムが崩れたときに、起きやすくなりますが、この働きに重要な役割を果たしているのがセロトニンという物質です。

脳内のセロトニンは大脳深部の中脳で産生され、近接した視床下部により、セロトニンの分泌が調節されています。片頭痛を持つ人は、環境のちょっとした変化や心身のリズムの変化、ホルモン異常などに対して視床下部が敏感に反応する体質が遺伝的に受け継がれているといわれています。この興奮した視床下部からの刺激を受けて中脳からセロトニンが大量に放出されますが、やがて脳内のセロトニンが枯渇してしまいます。ストレス状態はセロトニン欠乏脳を生みます。セロトニンは知覚神経である三叉神経をコントロールします。三叉神経終末にはCGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)という物質が存在しています。このCGRPは血管の受容体を介して血管を拡張させるとともに炎症を起こすことが知られています。セロトニンの減少により、三叉神経はセロトニンのコントロールから解き放たれ勝手に興奮し始めます。興奮した三叉神経は脳血管に向けてCGRPを放出し、脳血管を拡張させるとともに脳血管周囲に炎症を起こします。その結果、脳血管は過剰に拡張し、拡張した隙間から炎症物質が漏出し、血管周囲に起こった炎症をさらにひどくするとともに、血管周囲を取り巻いている三叉神経を刺激して、痛みが増強して脈打つ頭痛が起こるというのです。

すなわち体のリズムや環境の変化→セロトニンの消費と枯渇→三叉神経が興奮→CGRP放出→血管拡張、炎症→片頭痛発生という構図になります(図5)。

図5 片頭痛の発生メカニズム

図5 片頭痛の発生メカニズム

片頭痛の治療について

現在のところ5種類が使用されています。薬剤も急性期治療薬と予防薬に分かれています。トリプタン製剤は急性期治療薬に分類されています。三叉神経終末のセロトニン5HT1D受容体を刺激することでCGRPの分泌を抑制し、血管の過度な拡張や炎症や痛みを抑えて片頭痛を改善すると考えられています。心筋梗塞や虚血性心疾患、脳血管障害の既往、高血圧の方にはトリプタン製剤は投与禁忌となっています。また、片頭痛発作の早期に服用しないと効果がでにくいとされています。最近では5-HT1F受容体を刺激して心脳血管疾患の患者さんにも使用できるような片頭痛治療薬が登場し、CGRP 抗体薬である片頭痛の予防薬も登場し、効果をより一層発揮するようになってきました。

群発性頭痛について

群発性頭痛は一次性頭痛の一種ですが、目をえぐられるような、激しい痛みを伴います。あまりの痛みに我慢できず、頭を壁や床に打ちつけたり、痛みに耐えきれずに銃で頭を撃ち抜いてしまったケースもあります。そのくらい激しい痛みがあり、且つその痛みが周期的に起こるのが特徴です。緊張型頭痛や片頭痛に比べて有病率は非常に低く、1000人に1人程度と言われています。片頭痛が女性に多いのに対し、群発頭痛は20~40代の働き盛りの男性に多く発症することが知られています。 群発性頭痛の特徴として以下のものがあります。

  1. 頭痛が起こると興奮した状態となりおちつきがなくなる。
  2. 頭痛が起こると1~2時間ほど続き1~2ヶ月間毎日のように同じ時間帯に繰り返し生じます。
  3. 夜間、睡眠中に起こることが多い。

上記のような場合でも、クモ膜下出血や髄膜炎のような重大な原因のこともあるため、MRI 等の画像診断も必要です。

群発性頭痛の治療

1.禁煙・禁酒

群発性頭痛を生じないように生活上の注意点として、群発期はアルコールの摂取を必ず避け、禁煙を守りましょう。また、睡眠時間は規則正しくし、昼寝のし過ぎに注意しましょう。

2.酸素吸入

酸素吸入は拡張した脳血管をおさえ、脳血管周囲の三叉神経の炎症を鎮め、副交感神経の興奮を抑える効果があります。

3.トリプタンの注射

トリプタンには三叉神経の興奮を抑え、痛みを鎮める効果があります。片頭痛では内服薬が高い効果を示しますが、群発性頭痛では速効性のある注射薬を使用します。

4.発作を予防、軽減する治療

発作の予防薬として、エルゴタミン、ステロイド薬、カルシウム拮抗薬、炭酸リチウムなどが有ります。これらの薬剤はある程度症状を緩和出来るものの、群発期をなくすものではありません。

神経痛について

特発性三叉神経痛

三叉神経痛は顔、口腔内、鼻腔に分布する感覚の神経が痛むことで生じます。三叉神経痛は原因のはっきりしない特発性神経痛と腫瘍や感染症からくる二次性神経痛があります。ここでは特発性について説明します。

痛みは鋭い激痛や焼け火箸で刺されたたような痛みが数秒間続きます。顔では三叉神経の第2,3枝領域、すなわち下顎部、鼻根部あるいは頬の周囲などに生じます。軽く触れただけで激痛を引き起こす部位はトリガーポイントと呼ばれます。歯磨きや、洗顔、咀嚼、咀嚼、会話、風にあたる、などでも激痛が生じることがあり、食事や会話さえできなくなってしまうこともあります。痛みはしばしば歯肉にも生じるため、歯が原因と考え、誤って抜歯をしてしまうことも少なくありません。

特発性三叉神経痛の治療

薬物療法を行います。カルバマゼピン服用は最も有効な治療法です。高齢者では局所麻酔による神経節ブロックも有効とされています。薬物療法の効果が薄い場合や続行が不可能な方では微小血管減圧術で根治が出来る場合があります。